大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成8年(ワ)10678号 判決 1997年4月25日

原告

川端清高

被告

日新火災海上保険株式会社

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告らに対し、各自金一四七二万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年八月一日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

弟の運転する普通乗用自動車に乗車中、弟が衝突自損事故を起こし兄弟両名とも死亡した交通事故に関し、両名の相続人たる両親が自賠責保険会社に対し、自動車損害賠償保障法一六条一項に基づいて保険金の支払請求をなした事案である。

一  争いのない事実等(明らかに争わない事実を含む)

1  自賠責保険契約の成立

訴外川端敬治は、その保有する普通乗用自動車(大阪三五つ九五七二号、以下「本件車両」という)について、被告との間で、自賠責保険契約を締結していた。

2  交通事故の発生及び川端雅啓の死亡

(一) 日時 平成四年一〇月八日午後一一時ころ

(二) 場所 大阪府堺市築港新町一丁二番地先路上

(三) 車両 本件車両

(四) 事故態様 川端敬治(以下単に「敬治」という)が本件車両の運転を誤り、これを道路脇のコンクリート支柱に激突させ、よつて、同乗者たる川端雅啓(以下単に「雅啓」という)を死亡させると共に、自らも死亡した。

3  原告らの地位

敬治は本件車両の保有者であり、雅啓の弟である。右両名の相続人は両親たる原告両名である。

4  原告らの請求

原告らは被告に対し自賠責保険金の支払請求をなしたが、被告は平成五年七月三〇日、葬儀費用を除く保険金の支払いには応じられない旨回答した。

二  争点

1  保険金支払請求権の有無

(被告の主張の要旨)

自動車損害賠償保障法一六条一項の請求権が成立するためには、同法三条による損害賠償債権が成立、存続していることが要件となる。ところが、本件においては、右損害賠償債権は、保有者の相続人と被害者の相続人が同一人であることから、混同によつて消滅している。したがつて、原告らの同法一六条一項の請求が成立する余地はない。

(原告らの主張の要旨)

原告らは敬治の相続人ではあるが、自賠責保険金の限度においては損害賠償債務は相続の対象とならないものであり、その結果自賠責保険金額については民法の債権の混同の規定は適用されない。よつて、本件事故によつて原告らは被告に対し雅啓の自賠責保険契約に基づく被害者請求権がある。

2  損害額

(原告らの主張額)

(一) 逸失利益 三四一〇万円

(二) 慰謝料 九五〇万円

(三) 葬儀費用 五五万円

よつて、原告らは被告に対し、右金額中死亡による自賠責保険限度額三〇〇〇万円から支払が予定されている葬儀費用五五万円を差し引いた二九四五万円の各相続分たる一四七二万五〇〇〇円及びこれに対する被告への支払請求の後の日である平成五年八月一日から支払い済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三争点に対する判断

一  自動車損害賠償保障法三条による被害者の保有者に対する損害賠償債権及び保有者の被害者に対する損害賠償債務はいずれも相続の対象となるものであつて、自賠責保険金の限度内においては右損害賠償債務が相続の対象とならないというのは原告ら独自の見解であつて採用できない。

そして、右損害賠償債権及び債務が、相続放棄がなされることなく、相続によつて同一人に帰属したときは、同法一六条一項に基づく被害者の保険会社に対する損害賠償額の支払請求権は消滅すると解するのが相当である。けだし、同法三条の損害賠償債権についても、民法五二〇条本文が適用されるから、相続によつて右債権及び債務が同一人に帰したときは混同により右債権は消滅することになるが、一方、自動車損害賠償責任保険は、保有者が被害者に対して損害賠償責任を負担することによつて蒙る損害をてん補することを目的とする責任保険であるところ、被害者及び保有者双方の利便のための補助的手段として、自動車損害賠償保障法一六条一項に基づき、被害者は保険会社に対して直接損害賠償額の支払を請求し得るものとしているのであつて、その趣旨に鑑みると、この直接請求権の成立には、同法三条による被害者の保有者に対する損害賠償請求権が成立していることが要件となつており、また、右損害賠償請求権が消滅すれば、右直接請求権も消滅するものと解するのが相当だからである(最高裁平成元年四月二〇日・第一小法廷、民集四三巻四号二三四頁同旨)。

二  したがつて、原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく、理由がないものとしてこれを棄却する。

(裁判官 樋口英明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例